主人公である小平次がとにかく暗い。暗すぎる。こんなに暗くて存在感の無い主人公を見たことがない。
ほとんど動かない。いや、動かないどころかほとんど口を開くことさえない。
こんなにセリフのない主人公がゴルゴ13以外に存在したであろうか?
自分の嫁の隣に立つ。たったそれだけのことでさえ5年ぶり。
そんな男が一応、主人公なわけだが。。。
読み終えてみると「こんなに面白いのなら、もっと早く読んでおけばよかった!」と心の底から感じたのであった。
この主人公のキャラ設定で長編小説を書いてしまうのだから、さすが京極夏彦。尊敬する。
紹介文:
押入で死んだように生きる木幡小平次は、天下随一の幽霊役者。ある時、旅巡業の声がかかるが、それは凝り続けた愛と憎しみが解き放たれる修羅の幕開けであった。
女房・お塚を始め、小平次の周りに蠢く生者らの欲望、悲嘆、執着が十重二十重に渦巻き絡み合い炸裂し―やがて一つの異形の愛が浮かび上がる。
人間という哀しい華が圧倒的に咲き乱れる、これぞ文芸の極み。
古典怪談に材を取った『嗤う伊右衛門』に続くシリーズ第二弾。第16回山本周五郎賞受賞作。
それぞれの登場人物からの視点で話が進むのだが、ストーリーが二転三転 する。
その度に「えっ?えっ?えっ~!」となる。
現実は1つだが、世界は人それぞれなのだ。
ラストはせつない・・・。せつなすぎる。。。哀しくて、やりきれない。
登場人物はそれぞれ心に苦しみや、病のようなものを抱えていて。
どうにかすれば解決はできそうなのだけど。どうにもならない。
絡み合った糸が、触れば触るほどさらに複雑に絡み合ってしまうような。そんな感じだ。
読み終えてから、読み返すとさらに楽しめる。
あの時の、あのセリフ、あの文章には、あんな意味があったのか。。。
と思うはず。文章の隙間に埋め込まれた登場人物の心情。これぞ小説家の職人芸と言えるか。堪能あれ。
最も印象に残ったセリフがある。
「無理をして楽になるのと、無理をせずに苦しむのでは、どちらがよいだろう」
何年も前から「読みたいな」と思っていた本をようやく読むことができた。喜ばしいことだ。