「幽霊が見える女の子がいる---」そんな話を聞きつけたので、不思議なことが大好きな私は実際に行って会ってみようと思った。
その場所はまるでヨーロッパの大きな邸宅のようだった。
歩くたびに木でできた床のきしむ音が聞こえる。
奥の方がイギリスのパブのような店になっていた。
客は男が2~3人。みんな一人で飲んでいる。
カウンターにいる店のオーナーの女性は日本人にしては肌が黒い感じ。年齢は30代前半といったところか。
幽霊の見える女の子ことを聞くと、奥の部屋に居ると言う。
パブの奥の隅にある扉を開ける。
部屋は薄暗いが、女の子が小さいテーブルの奥で座っているのが見える。
私はテーブルをはさんで置いてある椅子に腰をかけて挨拶もなしに聞いてみる。
「幽霊が見えるって本当ですか?」
うつむいていた女の子が顔を上げる。フードをかぶっていてよく見えなかったのだが、長くてまっすぐの髪。目が大きく、肌は白い。年齢は16歳ぐらい。
おそらく美形な女の子なのだけれど、部屋が薄暗くてはっきりと見えない。
大きな目が私を見つめる。いや、微妙に私の左側か?
「あなたの後ろにいます」彼女が指を指しながら言う。
一瞬にして、私の体は凍り付いてしまった。
幽霊なんて信じていないのに、後ろを見ることができない。
その時、左耳の後ろから声が聞こえた。
声ではないのだが、声のようなのだ。
蚊が耳に近づいて来ているような音。
同時に生温かい吐息のような空気の流れを左耳の後ろに感じた。
確実に何かがそこにいる。
だが怖くて見ることができない。
それ以来、ずっとその声のような気配を感じる。
もうその声がない状態という感覚を思い出すこともできない。
いつかまた、その気配を感じなくてすむような生活ができるようになれば良いのだけれど。